石破茂首相はなぜ辞任したのか?後任は誰になるのか?(The Conversation)
公開日:2025年9月8日 午前5時54分(英国夏時間)
著者
セバスチャン・マスロー東京大学 国際関係論・現代日本政治社会学 准教授
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石破茂首相は、数週間にわたる党内からの圧力に屈し、就任から1年未満で辞任を発表した。
彼の退陣により、日本は政治的な不確実性に再び陥り、2012年に安倍晋三が安定を取り戻す前の1990年代と2000年代後半に支配的だった首相の頻繁な交代への懸念が再燃してきた。
後任者は、自民党を安定させるだけでなく、スキャンダルや派閥抗争、一党支配に対する有権者の懐疑心の高まりによって傷ついた政治システムへの国民の信頼を回復しなければならない。
なぜ石破氏は辞任したのか?
石破は、一連のスキャンダルの中で岸田文雄が辞任した後、昨年9月に就任したばかりだ。
彼が引き継いだのは深刻な問題を抱えた党だった。岸田は2024年、自民党と統一教会の広範な繋がりが暴露され、辞任を余儀なくされた。同教会は日本で長年物議を醸してきたが、2022年に安倍晋三元首相が同教会への恨みを抱いた男に暗殺された後、さらに批判が高まった。その直後に自民党との繋がりが明らかになった。
さらに、裏金疑惑が党への国民の信頼をさらに損なった。石破は改革と厳格な説明責任を約束したが、その姿勢は多くの重鎮、特に彼が対峙しようとしたスキャンダルに関与した者たちの怒りを買った。
石破の総裁選出直後に自民党は衆院の過半数を失い、その後も7月の参院選での敗北などさらに後退した。石破辞任を求める声は高まり、党の重鎮は彼が権力に固執すれば保守基盤が分裂すると警告した。週末、ついに本人は退くことを決めた。
石破は、米国との貿易交渉が進行中であることから政治的空白が生じるリスクを理由に、このタイミングを正当化した。先週関税削減に関する合意が成立したことで、彼は批判派に屈服した。首相が伝統的に用いる、議会解散という手段で対立勢力を黙らせる方法には頼らなかった。
この決断は不可解に映るかもしれない。最近の世論調査では石破の支持率が上昇傾向にあり、一般有権者の支持が高まりつつあることを示唆していた。
しかし彼の失脚は、選挙の勢いよりも党内規律を優先する自民党の旧勢力が、依然として舞台裏でどれほどの影響力を持っているかを浮き彫りにした。
小泉 vs 高市
党首選は既に始まっており、10月上旬に投票が行われる。二名の名前が際立っている。
一人は44歳の小泉進次郎。元首相・小泉純一郎の息子である。党内のリベラル派を代表する彼は、同性婚支持や夫婦別姓の容認を過去に表明しており、自民党内で異彩を放つ立場だ。
石破茂内閣で農林水産大臣を務めた際には、米価高騰への対応や、長年自民党の利権政治と結びついてきた農業分野の改革推進で評価を得た。
カリスマ性があり有権者からの人気も高い小泉は、野党・日本維新の会との連携を築いてきた。この支持基盤は、自民党が新たな連立政権を構築する際、あるいは連立与党である公明党との少数与党体制を維持する上で重要となる可能性がある。公明党は依然として法案成立に野党の支持を必要としているからだ。
選出されれば、史上最年少の首相となる。
対する高市早苗は強硬な保守派で、昨年の党首選では次点だった。
自らを安倍氏の継承者と称する彼女は、同性婚や夫婦別姓に反対し、自衛隊の役割を明確化するため憲法改正を支持し、日本の軍事態勢強化の必要性を繰り返し強調している。
彼女は自らを英国の元首相マーガレット・サッチャーに例え、成長を促進するための大胆な財政支出と金融緩和を訴えている。
選出されれば日本初の女性首相となるが、強硬な姿勢が連立与党の公明党との関係を緊張させる可能性がある。
今週のTBS世論調査では小泉と高市が19.3%で拮抗しているが、8月31日の日経調査では高市氏が23%で小泉氏をわずか1ポイント上回る僅差のリードを示している。
林芳正官房長官ら他の候補者も名乗りを上げる可能性がある。自民党が選挙方式をどう選択するか――党員投票を実施するか、それとも国会議員のみに投票権を与えるか――が大きな分かれ目となる。
いずれの場合も、立候補には国会議員20人の推薦が必要だ。
与党にとって重大な局面
石破退陣で自民党改革への期待は薄れた。
新党首が国民の信頼回復に失敗すれば、党は長期政権の弊害に陥る危険性がある。権力維持のため現状維持に固執する一方、新党「参政党」など右派ポピュリスト勢力が台頭している。
次期総選挙が2028年まで行われないと、日本は再び不透明な政治局面を迎える。自民党が強化されるか弱体化するかは、石破の後任が誰になるかだけでなく、懐疑的な国民に対し、同党に刷新能力がまだ残っていると納得させられるかどうかにかかっている。■
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Published: September 8, 2025 5.54am BST
Author
東京大学 国際関係学、現代日本政治・社会学 准教授