日本の与党を悩ますアイデンティティ危機(Bloomberg) ― 自民党総裁選挙をブルームバーグはこのように伝えています
首相の座を争う候補者たちは、具体的な政策案の代わりに陳腐な決まり文句を並べている。今こそビジョンを示す時なのに。
最有力候補と見られる人物。写真:花井徹/ブルームバーグ
日本の自由民主党は民主主義国家で最も支配的な政治組織で、過去70年のうちごく一部の期間を除き、1億2000万人以上の人口を抱えるこの国の政治を掌握してきた。しかし今や同党はアイデンティティ危機の真っただ中にあり、自らの理念や指導者像を見失っている。最悪なのは、勝利の方法さえ忘れたように見えることだ。
不振が続く自民党は、両院で少数与党としてかろうじて権力を維持し、5年連続で5人目の党首を探している。この失敗には多くの要因がある。1年前に党首に選出された石破茂首相は、国民的支持率向上が期待されたが、それは幻に終わった。彼にも責任の一端はある。しかし責任は広く分散している。前任者の岸田文雄は数々のスキャンダルを収拾できず、長きにわたり党を掌握していた安倍晋三氏の暗殺事件も影響している。安倍の不在は今なお重くのしかかっている。
世界中の伝統的政党と同様、自民党も世代交代による激動の時代に直面している。ソーシャルメディアのスピードは、デジタルネイティブではない政治家たちが追いつける範囲を超えている。しかしこの危機はまだ存亡に関わるものではない。伝統的な野党がさらに苦境にある時期にこうした苦闘が起きているのは幸いだ。立憲民主党は7月の参院選で大敗し、その無力さが無党派層の支持拡大につながった。失望した自民党支持者が代替案を求めた結果だ。
自民党の党員と議員は再び栄光を取り戻せる人物を探している。月曜日から始まった党首選は10月4日の議員・党員投票で決着する1。当選者はほぼ確実に次期首相となる。掲げられたスローガンは「変えろ!自民党!日本の未来を語れ!」という命令形だ。再び失敗する余裕はない。国内ではインフレやオーバーツーリズムへの国民の不満、国外では米国の関税措置という課題に直面している。
しかし候補者の中に変革をもたらす人物がいるかは全く不透明だ。実際、5人全員が昨年の選挙で石破氏に敗れた顔ぶれである。野党・民主党の野田佳彦代表が今回の選挙を「敗者復活戦」と一蹴したのは的を射た反論だった。
政策を練る1年の猶予があったにもかかわらず、5人の候補者いずれも説得力のあるビジョンを示せていない。昨年の敗北と石破が残した状況を検証する機会を得た候補者たちは、全員が中道へ舵を切った。保守派はより穏健に、その逆もまた然りだ。具体的な政策案は棚上げされ、陳腐なスローガンに置き換えられた。
最有力候補と見なされる小泉進次郎を例に取ろう。彼は昨年の選挙運動で一連の政治的失策を犯した。企業の人事管理を柔軟化する政策を提唱したが、これは必要な措置かもしれないが、政治的に賢明なスローガンではなかった。彼はこれを放棄し、夫婦別姓の容認など他の分断的なアイデアも捨て、加藤勝信財務相を選挙運動の指揮官に据え、自身の保守的な実績を磨いている。
一方、主要な対抗馬である高市早苗は、岸田前首相から「タリバン」というあだ名が付いたほど過激と見なされていたが、現在は鋭い角を削るという正反対のアプローチを取っている。昨年は日銀の利上げを「愚か」と非難し、財政緩和を主張していたが、今年はより「責任ある」「賢明な」支出を強調している。選挙運動開始の記者会見では、出身地・奈良で鹿を蹴る乱暴な観光客について、大半の時間を費やして不満を訴えた。
他の3候補——茂木敏充前外相、林芳正官房長官、小林高幸前経済安全保障担当相——も具体的な政策は乏しい。当選の可能性を高く見る者は少ないが、昨年の石破氏も本命ではなかったことを念頭に置く価値はある。候補者たちの共通テーマは、政策ではなく目標を掲げることだ。例えば賃上げ推進を掲げつつ、その具体策は示さない(熊本や北海道の半導体工場など大規模プロジェクトへの政府主導投資を訴えた小林の主張は顕著な例外だった)。
安倍経済政策の後継となる政策を同党は未だ模索中だ。その是非はともかく、安倍首相が二期目の初期に掲げた経済ビジョンは、目標と達成手段の両面で極めて明確だった。首相退任後、後任の菅義偉首相はパンデミック対策に追われ、小規模な成果に注力するばかりだった。岸田の「新資本主義」は矛盾した考えの寄せ集めであり、石破が経済政策を持っていたとしても、誰にも明かさなかった。
国に対する野心を明確にする時間はまだ残されている。7月の選挙での惨敗を経てようやく、ほとんどの候補者が(当然ながら)外国人に対する過度に緩い財産権やその他の移民問題を取り上げ始めた。五人全員が「国民の声を聞きたい」と主張する。ならばビジョンを示すべきだ。短期的な問題を超え、道筋と実行方法を示すビジョンを。そのような計画を提示できなければ、自民党指導者にとって結末は一つだ——石破氏並みの短命政権に終わる。■
An Identity Crisis Is Haunting Japan’s Ruling Party
Candidates vying to become prime minister are offering platitudes in place of proposals. It’s time to present some vision.
September 24, 2025 at 4:00 AM GMT+9
執筆者 ギアロイド・レイディ
ギアロイド・レイディはブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と朝鮮半島を担当。以前は北アジア速報チームを率い、東京支局副支局長を務めた。